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最高裁判所第二小法廷 昭和57年(オ)361号 判決 1983年9月09日

上告人

辰本全敏

外八名

右九名訴訟代理人

榎本勲

被上告人

野中武次

右訴訟代理人

小柳正之

坪岡民子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人榎本勲の上告理由について

原審が適法に確定した事実関係の要旨は、(一) 被上告人は、昭和三三年ころ自動車学校の経営を計画しその用地を物色するうち、知人から亡辰本伸次郎を紹介され同人と交渉の末、同年四月一七日同人との間で本件賃貸借契約を締結したうえ、両者間で右契約に関し公正証書を作成した、(二) 同公正証書においては、賃貸条件として、(1) 賃貸借期間は昭和三三年四月一七日から二〇年とする、(2) 本件賃貸借は自動車学校建築のため木造家屋の敷地に使用する目的をもつてしたものであるから、賃借土地をこれ以外の目的に使用してはならないことなどの条項が記載されている、(三) 被上告人が本件土地を賃借した当時、同土地の現況は池でゴミ捨場になつていたが、被上告人は、自己の費用で右土地を平坦地として造成する工事を施したうえ、その地上の一部に自動車学校の校舎、事務所等として使用するための本件建物を建築し、その余の土地を自動車運転の実地練習のための教習コースとして整備し、昭和三三年一〇月ころから自動車学校の営業を開始した、(四) 被上告人は、昭和三九年ころから本件土地の周辺に数筆の土地を取得し、同土地上に自動車学校の校舎、講堂、車庫、職員住宅等の施設として数棟の建物を建築し、漸次営業規模を拡張して今日に至つている、(五) 本件土地の実測面積は合計1万5554.33平方メートルであるのに対し、同地上の建物の敷地面積は合計705.01平方メートルであり、右敷地面積の本件土地全体に対する割合は4.5パーセントである、というのである。

右事実関係のもとにおいては、契約当事者は単に自動車運転教習コースのみならず、自動車学校経営に必要な建物所有をも主たる目的として本件賃貸借契約を締結したことが明らかであり、かつ、自動車学校の運営上、運転技術の実地練習のための教習コースとして相当規模の土地が必要であると同時に、交通法規等を教習するための校舎、事務室等の建物が不可欠であり、その両者が一体となつてはじめて自動車学校経営の目的を達しうるのであるから、自動車学校経営のための本件賃貸借は借地法一条にいわゆる建物の所有を目的とするものにあたり、本件土地全体について借地法の適用があるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例(最高裁昭和三四年(オ)第七一四号同三五年六月九日第一小法廷判決・裁判集民事四二号一八七頁)は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、ひつきよう、原判決を正解せず、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(鹽野宜慶 木下忠良 宮﨑梧一 大橋進 牧圭次)

上告代理人榎本勲の上告理由

上告理由第一点

原判決は次の通り判決に影響を及ぼすべき法令の違背があり破棄を免れない。

即ち原判決は本件土地の貸借が建物の所有を目的とするものであるとして借地法の適用をしているが、同法第一条の解釈を誤つたものと言わなければならない。

1 借地法一条にいう「建物の所有を目的とする土地」とは借地人の借地使用の「主たる目的」がその土地に建物を築造し之を所有することにある場合を指し、借地人がその地上に建物を築造所有する場合でもそれが借地使用の主目的でなく従たる目的にすぎない時は右条項に該当しないと解するのが相当である。

2 本件土地の賃貸借の目的とするところは被上告人が右で自動車学校を経営し、自動車練習場として使用することに主目的があつたので之を社会通念に照して考えると主目的は右土地を自動車練習場として直接利用することにあつたと解すべきである。

被上告人に当初から原判決判示建物を建築する目的があつてもそれは自動車練習場に利用する為の従たる目的にすぎなかつたものと言わなければならない。

3 原判決は自動車学校経営の為の土地賃貸借に於ては建物所有と教習コースとして土地利用の目的は有機的に一体となつて併存しているので本件賃貸借についても借地法第一条の適用がある旨判示している。

4 然し乍ら右認定は甚しく恣意的、一方的なものである。

この種の土地賃貸借に於て何れが主であり従であるから一般社会観念に従つてなされねばならない。

一般世人は自動車練習場として土地を貸すと言う契約に建物所有を独立の又は主たる目的とする合意があると考えるであろうか交通法規を教室で練習する為の校舎は必要であろうがそれは主目的とする運転技術の実施練習に比べれば従たるものであるバッティングセンター、野球場、競馬場、ゴルフ練習場等広大な土地を使用し且建物をも使用する一切のものがその建物所有を主目的と曲解される恐れがある。

原判決は借地法の右条項が保護の対称を限定しようとした立法の趣旨を没却する恐れがある。

5 当事者の意思

(イ) 本件に於ては昭和四一年三月頃当事者双方共に本件賃貸借契約が自動車学校教習を主目的とするので借地法の適用がないこと従つて当初より起算して二十年を経過したならば期間満了とし建物を収去して本件土地を明渡す旨の特約がなされている。

(ロ) 本件土地中建物敷地部分は僅かに4.5パーセントで95.5パーセントに当る大部分の土地が教習コースとして使用されていることは原判決事実摘示の通りである。

(ハ) 右当事者の合意も又借地法第一条の解釈には之を尊重し特別の事情あるものとして借地法第一条の適用を排除すべきである。

上告理由第二点

原判決は判決に理由を付しない違法がある。

上告人らは「仮に本件建物敷地が借地法一条に該当する建物所有を目的とするものであるとしても同条の『建物の所有を目的とする土地』とは借地上の建物の所有ないし利用に必要な土地のみがその対象となるというべきであるから本件土地のうち本件建物敷地部分とその周辺部分以外の土地については借地法の適用のないことは明らかである」旨主張したが、之について何らの判断をしていない。

右は判決に理由を付さない違法がある。

上告理由第三点

原判決は判決に影響を及ぼすべき判例違反の違背があり破棄を免れない。

1 即ち最高裁判所昭和三四年(オ)第七一四号(昭和三五年六月九日第一小法廷判決言渡)の判決に於て「本件土地が自動車練習場として期限の定めなく賃貸され、判示建物は右使用目的の便益に供する為附随的に設置されたに過ぎない旨の原審の事実認定を肯認することができる。さればその認定した事実関係の下における右賃貸借契約には借地法の適用がない旨の原判決の判断もこれを正当として是認できる。」旨言渡があつた。

2 原審は右判例を排斥する理由として

「なお、上告人ら引用の判例は単に自動車運転の練習場として期限の定めなく賃貸された土地の賃貸借契約について借地法の適用がないと判断したものであつて、自動車学校建築のため木造建物の所有を目的として、期間を二十年と定めて土地が賃貸された本件賃貸借契約とは事案を全く異にするから本件に適切ではない。」旨速断している。

3 前記判例の認定する事実は既に自動車練習場として建物を設置していたものをその上告人が昭和九年頃期限の定めなく賃借した事案である。

右建物は自動車学校の車庫、物置に使用されていた。

4 本件に於ても本件土地に被上告人が建築し使用している建物は指導員控え室、会議室、倉庫、事務所のみでその使用の状況は同一であり、借地面積と建物床面積との比率も大差がない。

5 従つて原審の右判断は右判例の解釈を誤つたものと言わなければならない。

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